転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


55 世の中には触れてはいけないものがあるらしい



 まだ1箇所しか見てないけど、思ったより錬金術ギルドに長い時間居たから流石にもうお父さんの買い物は終わってるだろうって思って僕は酒屋さんに向かった。
 ところがびっくりする事に、そこではまだお父さんが絶賛試飲中だったんだ。

「お父さん、いつまで飲んでるの? もういっぱい時間経ったよ」

「ん、そうか? だがまだ試飲してない物もあるからなぁ。買って帰る以上全種類確認して、村で待ってる奴らが納得するものを買っていかないといけないんだよ」

 う〜ん、そんな物なのかなぁ? 僕からするとどれも同じ様に思えるんだけど。
 それにこれから馬車で村まで帰るのに、お酒をそんなに飲んで大丈夫なのかなぁ? 
 まぁ僕の賢者レベルが3になってキュア・ポイズンが使えるようになったから最悪その魔法でお酒を抜いてしまえばいいと思うけど、それにしても飲み過ぎはやっぱりよくないと思うんだよね。

「お父さん、ほんとに大丈夫? そんなにのんでても村までちゃんと馬車をうごかせる?」

「大丈夫だ、心配するな。これくらいの酒なんてどうと言う事はない」

 僕が心配して聞いても本人は大丈夫と繰り返すばかり。
 でも酔っ払ってるお父さんの言葉だから、本当に安心してもいいのか解らないんだよね。
 だって酔っ払った人っていきなり寝ちゃうイメージがあるし、馬車で移動中に寝ちゃったら危ないもん。

 そう思って不安そうな顔をしていたら、近くに居た酒屋さんの店員のお兄さんが僕を安心させようと笑いながら声を掛けてくれたんだ。

「心配しなくても大丈夫、カールフェルトさんがうちに来て全種類を試飲して行くのはいつもの事ですから。と言うよりグランリルの人たちはたいていがそうですけど、今まで帰りに事故を起こしたと言う話は聞いたことがないですから、心配する必要はないと思いますよ」

 なんと! お父さんだけじゃなく、グランリルの人たちはみんなこのイーノックカウに来るとこの酒屋さんでいっぱい試飲してくんだって。
 でも、今まで事故が起こらなかったからと言っても今回もそうとは限らないんじゃないかなぁ?

「そうなの? でもお父さん、こんなによっぱらっちゃってるよ?」

「ええ、大丈夫だと思います。レベル、だったかな? グランリルの人たちはそれがみんな高いから毒への耐性もかなり上がっているらしくて、そのおかげでアルコールも毒の一種だから酒に酔っても抜けるのが早いんだって村から来た人が言ってましたから」

 ああなるほど、言われてみれば確かにその通りだ。
 レベルが上がれば毒への耐性は高くなるし、自然治癒能力も高くなる。
 アルコールも毒の一種だと考えれば確かにお酒に酔いにくく、覚めやすいって事になるのか。

 そう思って改めてお父さんを見てみると、足元もしっかりしてるし口もちゃんと回ってる。
 なるほど、確かに大丈夫そうだね。

「安心しましたか? ではこれでも飲んでもう少し待っていてください。流石にこの店にある酒も後数種類を残すだけですから」

 僕がホッと一安心していると、その様子を見ていた酒屋の店員のお兄さんがヤシの実のような大きな木の実の上をくりぬいたものを僕に差し出してきたんだ。

「これなに?」

「これはセリアナと言う木に生っている実で、こうして先端に穴を開けて中に入っている果汁を飲むんだ。ほら、ここに切れ目が入れてあるだろ。ここに口をつけて飲むといいよ」

 なるほど、飲んだ事はないけど前世にあったって言うヤシの実ジュースみたいなものか。
 そう思ってためしに軽く振ってみたら、中からポチャンっとなにやら液体のようなものが入っている音がした。
 それに匂いを嗅いでみると中からとっても甘い匂いがするし、うん! これはぜったい甘い奴だ。

「ありがとう!」

 僕はそう言うとお兄さんの言うとおり切り目の所に口をつけて、セリアナの実を持ち上げながら中のジュースを一口。
 僕はてっきりさらさらな果物のジュースみたいなものが出てくると思って飲んだんだけど、中に入ってたのはココナツミルクのようなものでちょっと濃厚な味がしたんだ。

「どう、気に入ってもらえたかい?」

「うん、とってもおいしいよ!」

 思っていた味ではなかったけど甘くて濃厚なセリアナのジュースはとっても美味しかったから、僕は笑顔で店員のお兄さんにそう答えたんだ。

「それは良かった。もし気に入ってくれたのならお土産にお父さんに買ってもらうといいよ。穴さえ開けなければ30日くらいはもつから」

「うん、そうするよ」

 そう言うと店員のお兄さんは僕から離れて行ったから、店内を見回してセリアナの実の値段を探してみたら5セント、鉄貨5枚って書かれてた。
 うん、こんなに美味しいんだから買って帰ったらお兄ちゃんやお姉ちゃんも喜ぶだろうし、値段もそんなに高くないからお父さんもきっと買ってくれるよね。
 そう思った僕は離れた所で嬉しそうに試飲を繰り返すお父さんを、残りのジュースをちょっとずつ飲みながら待つ事にしたんだ。


 一気に飲んじゃわなくてほんとに良かった。
 だってお父さんの試飲が終わったのは、なんとそれから30分以上たってからだったんだもん。

 後ちょっとだと言ってたのにすごく時間が掛かったんだなぁって思って店員のお兄さんに聞いてみたらお父さん、買っていく10種類のお酒の内、最後の1種類に迷って二種類のお酒を何度も飲み比べてたんだって。
 まったく、そんなに決められないなんて、大人なのに仕方ないなぁ。

 でも、取り合えず買うものは決まったらしいから、その10種類のお酒を大樽に詰めてもらう事に。
 で、その間に僕はお父さんにセリアナの実も買って欲しいって頼んだんた。
 そしたら気軽に、いいよって返事が返ってきたんだけど、

「それじゃあセリアナの実も1樽追加で」

 なんとその一言で80個以上のセリアナの実を買って帰る事になってしまったんだ。

 僕としては家族の人数分くらいでいいと思ってたんだけど、お父さんが言うにはセリアナのジュースはお母さんたちも大好きらしくて、これだけ買って行っても多分10日もあればみんな飲んじゃうんだって。

「これは栄養価が高すぎて飲みすぎるとすぐに太るから買って来なくてもいいってシーラはいつも言っているけど、本当は飲みたがっているのを知っているからな。今回はルディーンからのおねだりと言う大義名分があるから買って行っても大丈夫だろう」

「そうなんだ。大好きなのに買わないなんてへんなの。それに太ったっていいってぼく、思うんだけどなぁ」

 どうせ狩りに行けばいっぱい動くんだし、ジュース飲んで太るくらいいいと思うんだけど。
 この話を聞いてもお母さんが何でそんな事気にするのか、全然解んなかったんだ。
 でも、そんな僕にお父さんは注意をした。

「ルディーン、シーラには太ったって大丈夫だよなんて言っちゃダメだぞ」

「なんで? ぼく、かえったら言ってあげようって思ってたのに」

「やっぱりか。あいつ、子供を6人も生んだからか、いくら動いても体型が戻らないっていつも気にしてるからな。そんな事をルディーンが言われたら途端に不機嫌になって俺が何か言ったんだろうって怒って来るのが目に見えてる。だからな、絶対に言うんじゃないぞ」

 う〜ん、お母さん、別に太ってないと思うんだけど。
 でもお父さんの顔を見てると、太ってもいいのになんて言ったらなんかすごく恐ろしい事が起きそうな気がして、僕は怖くなって聞くのをやめる事にしたんだ。

「うん、わかったよ。ぼく、かえっても聞かない」

「ああ、その方がいい。聞いたところで誰も幸せにはならないからな」

 幸せにって……お母さんにとって太るってそんなに大変な事なんだね。


 こうしている間に店員さんたちの手によってお酒の手配が終わり、冒険者カードで支払いも完了。

「それじゃあ後で馬車を回すから、積み込みはその時に」

「はい、お待ちしております」

 引き換え用の木札を貰って僕たちは酒屋さんを後にしたんだ。
 そしてその後は食料品が売っている商会を何軒か周ったんだけど、そっちでは試食とかはしないから特に時間が掛かることも無くあっと言う間に終了。
 続いて僕たちは衣料品やポーション類、雑貨などを買うために違う区画へと歩き出したんだ。

「ねぇお父さん、こっちってぼうけんしゃギルドの方だよね?」

「ああ、個人向けの商店はあっちの方にあるからな。それらを周ったら、最後に冒険者ギルドにも顔を出すつもりだ」

「うん! かえるよって、みんなにあいさつしないといけないもんね」

 ギルドの登録とか色々とお世話になったんだから、何にも言わずに帰っちゃうより最後にお別れの挨拶をきちんとした方がいいもんね。


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